今年(2016年)の6月に経済産業省から「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」が出されていますが、その調査の一環として、「IT人材に関する各国比較調査」が実施され、IT人材の属性や実態について他国との比較をしています。

それによると、IT関連職の人気が日本だけ異常に低い数値になっています。

IT関連職の人気

なぜ、こういう結果になるのか自分なりに分析してみました。

自分がシステム開発を始めて経験したのは、1990年のことでした。バブル景気の頃で、日本は半導体分野ではDRAMを始めとして世界を席巻していました。また、メインフレームの分野では富士通やNECが頑張り、パソコンは NEC の PC-9801、ワープロソフトは一太郎という時代で日本のソフトウェア産業もそれなりには元気でした。

自分はその当時は公務員だったので発注者側で、受託したのは「マイナンバー」のシステムを開発した「大手5社連合」のうちの1社でした。SIer の開発担当者は、優秀で勤勉だったのでシステム開発は比較的スムーズに進んで、内部調整の方にかなり苦労しました。その当時にこういう調査をすれば、ここまでIT関連職の人気が低い数値にはならなかったと思います。

その後のシステム開発がどうなっていったかというと、日本では、SIer のエンジニアがあまりにも勤勉過ぎたので、ユーザー企業の情シス(情報システム部門)がSIerに依存してしまったように思います。

その後、パッケージや Salesforce のような SaaS タイプのサービスを利用すればシステム開発経費はかなり抑えられるという状況になってきたのですが、日本では、そういう方向にはあまり進んでいません。パッケージや SaaS の場合、利用するためには設定やカスタマイズをする必要がありそれなりの技術力が必要になります。また、SIer に発注するようにはシステムをカスタマイズできないので、組織のやり方を変える必要がありますが、そのための内部調整は結構疲れる作業なので、そいうことを嫌ったためだと思います。要するに情シスが面倒なことはしたくなくて、SIerに投げてしまっているというのが実態ではないでしょうか。それにもかかわらず経費節約で開発費は下がっているのではないでしょうか。

経産省の調査からのデータですが、日本だけが受託情報システム開発・システムインテグレーションの従事者が極端に多くなっています。 勤務先業種

欧米の企業では、重要だと思う業務はシステムも内製するし、そうでない業務だと業務ごとアウトソーシングしてしまいます。同じ処理をするプログラムを各社毎に作るのは非効率的です。例えば、人事・給与をアウトソーシングしている会社は多いと思います。調査結果ではアメリカはその他IT関連サービスに従事する人が多くなっていますのはそういう理由からです。

日本の SE(システムエンジニア)の仕事は、ユーザーとやりとりしたり、下請や部下をマネジメントすることであって、アプリケーションを作ることではありません。こういう仕事を上流工程といって誇らしげにしていますが、現在では開発ツールが進化してそういうツールを使えば不要な工程にもかかわらず、伝言ゲームをしているようなもので非効率です。海外では、SE という言葉自体が死語です。

前回のブログに書いた10年前のシステム開発の事例では、スタンドアローンに近い環境で運用することを想定したシステムを100人以上が同時に使う環境にそのまま持ってきたのが原因です。よく使う重い処理のキャッシュが全くできていませんでした。その PM は、プレゼンは上手でしたが、プログラム能力は全くありませんでした。SIerの中でも面倒なことは下請や部下に投げているようです。

日本の場合は、ユーザー企業の情シスの能力が低いので、SIerが不要になることはないし、SE の必要性も直ぐになくなることはないと思います。だから、現状に満足している人はそのままでいいと思います。

しかし、給与・報酬に対する満足度は世界最低じゃないですか。効率の悪いところに高い給料は払えないし、最近の日本の企業は、経費削減ばかりに熱心なので当然の結果です。 給与に対する満足度

給与に不満がある場合、冷静に自分がその会社で10年後、20年後どうなっているか想像してみてください。人間には自分だけはと楽観的に考えるところがあるので、10歳年上の先輩、20歳年上の先輩の現実の姿をよく調べてください。

そうすれば、多くの場合は黙っていては、待遇がよくなる見込みなんてなくて、逆に使い捨てられる恐れもあるというのがわかるでしょう。そういう場合には、どうしたらいいのかというと、自分の技術レベルを上げて転職するしかないと思います。転職には次のような選択肢があると思います。

  1. 転職エージェント等を利用してよりましな企業に転職する。

  2. プログラミングの能力が高ければ、英語の勉強をして、GitHubでOSSのソフトにコミットして自分の能力を認めてもらい、LinkedIn で新しい職場を探す。この方法は、世界的にはオーソドックスな方法です。ただし、日本では、LinkedIn はあまり使われていないので、コミュニティ活動をするのもいいと思います。

  3. 独立して自分で稼ぐようにする。独立すると一人で何でもしないといけないのでソフトウェア開発者、Web開発者のタイプが向いていて、チームで開発する SE や PG は向いていません。SE や PG の場合は、設計からプログラムまで一人でできるように事前に訓練する必要がありますが、そうすることで開発効率は少なくとも3倍ぐらいよくなります。

  4. IT関連の職種に向かないと思ったら、早く別の業種に転職する。年がいってからの転職は大変だということを考えてください。

経産省の調査では、2030年にはIT人材が78.9万人不足するという推計結果になっていますが、実際は効率化で十分対応出来ると思います。今後、人工知能が発達してシステム開発がより効率的にできるようになることを考えれば尚更です。今回のブログは、これぐらいで終わりにして次回以降もう少し重要なポイントを詳しく説明していきたいと思っています。